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踏みとどまった思いの行き先
2026/06/26  [PR]
 

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 最近あぶなっかしいなぁ、と思っていた。影の中から華品を見ていて、よくふらつくし、寝てばっかだし、ぼーっとして人の話聞いてなかったりするし、よく食うようになったし。あ、食うようになったのは良いことか。元が食わなさすぎたんだよな。
 それと比べてオレはずっと調子がよかった。
 初めは真っ暗闇になると華品の影とほかの影との境がなくなって、自分の存在も溶けちゃう感じだったけど、最近じゃあ真っ暗闇だろうがなんだろうが関係なかった。
 華品の影はオレで、オレが華品の影だった。
 でも、お別れは唐突に来る。
 あとから考えりゃんなの当たり前なんだよなぁ。太陽に近づきすぎて力なくなって、華品の影でしか存在できなくなって、でも力が戻ってきたのはなんでか。
 華品の精力を吸い取ってたんだよ。
 仲間同士でも話してた。力使いすぎたときの、一番の回復薬は人間の精力だ、って。

「華品」

 華品の影から出れたときはそんなのすっかり忘れていた。自分の足で立っている。自分の意志で体が動かせる。嬉しくて、それしかなかった。
 オレの存在で華品が生きていたなんて、考えもしなかった。
「あぶなっ」
 倒れる華品に手を伸ばしたところで、オレがコイツの寿命を縮めたことは揺るぎない真実として残るのに。



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「そういやこの前、ジュンのお母さん見たよ」
「は、マジ?」
「うん」
「どこで?」
「どこだったっけなぁ。とにかくパトロールしてたら見たんだよ」
「あの人なんもいってなかったけどな……」
「やー、若い男と一緒だったからねぇ。言えないでしょ」
「は?」
「たくさん買物したみたいで、紙袋さげてた。男の顔は見えなかったけど、デレデレしてたんじゃないかなぁ」
「え、え、ちょっと待って」
「ジュンのお母さん、若いもんねぇ」
「見た目だけな。じゃなくて、は? マジ?」
「ウソついてどうすんのさ」
「それをネタにたかるとか……」
「ああ、口止め料として?」
「ウイなら言いかねねーから」
「たかっていいならたかっちゃうゾ☆アタシほしいカバンあるんだよねー」
「え、少し黙っててくれる?」
「だってさー、最近なかったの? お母さんが紙袋たくさん抱えて帰ってきたこと」
「なかったと……思うけど……」
「じゃあ男の家に置いてったのかもね」
「いやいや、なんで」
「新しいパパができるかもよ、そのうち」
「えー。いやそれはそれでかまわないけど、えぇー?」
「今度ジュンママとご飯食べようかなー」
「ウイ……」


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軽いノリで書きたいなぁ。

「アタシも服飾代を公費で落としたい」
「ウイがバカなこと言い始めたぞー」
「だってその服着て仕事するならそれは衣装代っていうか制服になるんじゃないの?」
「お前は欲しい服があるのか」
「コート欲しい」
「自分で買え」
「だってぇー!コートっていってもいろいろあるじゃない。いろいろ欲しいじゃない。触り心地のいいファーがいいじゃない」
「お前……毛皮……」
「だってだってすっごく似合いそうなワンピース買ったんだもん!最高のワンピースに最高のコートきてる最高な女になりたいじゃない!」
「安心しな、ウイはなに着たってかわいいから」
「ジュン…………っていうと思ったか、バカ!どうせピンチになったときに助けてもらうなら、美しい方がいいでしょ?」
「別にどっちでも……」
「どうせ恋に落ちるなら、美しい方がいいに決まってるの。いい男はいい女に落ちるの。だからアタシは美しくなるのよ!そういうわけで、ジャス☆ティスの制服変えない?」
「変えない変えない」
「かえよーよー!ティアラ様も美しい方がいいに決まってる。そばでうろちょろしてるのが美しくなかったらティアラ様の株大暴落じゃん!」
「おいおいおいおい……」
「ウイ」
「なによ、ジュン」
「美しくありたいなら、その派手な化粧落としなよ」
「!!」


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治安維持部隊 ジャス☆ティス
なんていうか、うん、最初は名前の頭文字を並べると「justice」になるように、カタカナのね、外国人の名前をつけようとしてさ、いろいろ見てたんだけど、どうにもこうにも、結局カタカナなだけになった。
カタカナなのは、通称? コードネーム? だからとか、ごにょごにょ。

 疲れているのかと思っていた。
 寝ても寝足りない。いつだってだるさが体につきまとう。いくら食べたってお腹が空いて仕方がない。立ちくらみはしょっちゅうだったし、めまいも度々あった。
 病院に行かなくては、と思ってはいたが先延ばしにしていた。どうせ大したことではない。それに病院は、どうしても好きになれない。
 一度捨てようとした命だ。惜しいとは思わない。

「華品(かしな)」

 ぼーっとしていたせいで反応が遅れた。棚に仕舞おうと手に持っていた何枚かの皿が落ちる。その落下を目で追っていたら、自分のものではない足があった。
 皿の割れる耳障りな音を背景に顔を上げ、正面に立つ見慣れない男に目を丸くした。
 黒い髪はゆるく弧を描いている。彼の口が動く。しかし、なにを言っているのか聞こえない。
「誰ですか」尋ねようと口を開いたが、のどは震えず、代わりに体が横へ崩れる。
 驚いた顔の男がこちらに手を伸ばしてきた。腕をつかまれる。しかし体を支えられない。足に力が入らないのだ。
 男もろとも床に倒れる。途中で、男が手を離した。このまま倒れたら自分は割れた皿に被さると判断したのだろう。床に手をついていた。
 しかし華品にはその反射神経と瞬発力がなかった。鈍い衝撃とともに体がうつ伏せで安定した。
 起きなきゃ、と思うのに体が動かない。それに今、あちこちをぶつけたはずなのに痛みがない。どういうことだ。
 男の足が近寄ってきたのを視界の端にとらえ、そこで華品の意識は真っ暗になった。




 ふわふわと、葉(よう)の飛び跳ねる体にあわせて茶色の髪が揺れる。パーマをあて、染色もされた髪はとても痛んでおり、触るとパサパサしているのを潤(じゅん)は知っている。
 茶髪やめれば? と言ったこともあった。そうだねー、と気のない返事をした次の日には明るい茶色が焦げ茶に変わっていた。ますます痛んだ髪は、いつの間にか明るい色に戻っていた。意味ねー、と葉の頭をぐしゃぐしゃになで回したのは最近の話だ。
 葉はテレビに映し出されたアイドルの踊りを真似て動く。それを潤はベッドに寝ころびながめる。あくびをした。ら、葉が勢いよく振り返った。
「なに」
 と口に出すのをこらえると、すぐにテレビと向かい合う。
 ああ、アイドルが後ろ向いたのね……。もう一度あくび。立てていたひじから頭をおろし、ベッドに仰向けになる。葉が恋をしているアイドルのポスターと目があった。
 大きな瞳でこちらを見てくるアイドルが、潤は好きになれない。
「好きだー!」
 曲が終わる度に葉はそう叫び、拳を振り上げる。なんのおまじないだろう。潤はアイドルの視線から逃れるために目をつぶる。
 もう何回も聞いて覚えてしまったアイドルの曲と、葉のあまり上手くない歌声が聞こえてくる。少し黙ってくれないかな、と思った。



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