ぼんやりとした顔で遠くを見る。華品(かしな)はテーブルに広げた手紙を片付ける手を止め、窓の外に広がる夕焼けを視界に入れた。
いつまで経っても詩那(しいな)は帰ってこない。手紙を送ってくるだけだ。
希壱(きいち)だって帰ってこない。連絡すらない。
いつまで一人なのだろうか。
このままずっと一人なのだろうか。
よぎる不安をごまかすように、手を動かす。
「返事、書かなきゃ」
イスから立ち上がった瞬間、めまいに襲われる。危ない、と思ったときにはもう遅く、バランスを崩した体は床へたたきつけられた。衝撃で起きたのか、影の中から眠そうな声がした。
『あー、かしな?』
「はは、最近転んでばっかですね」
痛む腰をさすりながら笑う。デイは「バカだなぁ」とあくび混じりにつぶやいた。
影に衝撃なんて伝わるのだろうか。何度もあくびを繰り返す声を聞きながら華品は考える。
しかし考えはまとまらない。窓を閉めなきゃ。夕飯はどうしようか。買い物に行くのがなんだか面倒だな。あれもこれも気になるのに、まとめることができない。
心臓の音がやけにうるさくてたまらなかった。
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詩那は華品の嫁。希壱は華品の命の恩人。デイは華品の影にいる悪魔。
ファンタジックな設定のはずなのに、ファンタジックさが伝わってこないのはなんでだろう。
いつまで経っても詩那(しいな)は帰ってこない。手紙を送ってくるだけだ。
希壱(きいち)だって帰ってこない。連絡すらない。
いつまで一人なのだろうか。
このままずっと一人なのだろうか。
よぎる不安をごまかすように、手を動かす。
「返事、書かなきゃ」
イスから立ち上がった瞬間、めまいに襲われる。危ない、と思ったときにはもう遅く、バランスを崩した体は床へたたきつけられた。衝撃で起きたのか、影の中から眠そうな声がした。
『あー、かしな?』
「はは、最近転んでばっかですね」
痛む腰をさすりながら笑う。デイは「バカだなぁ」とあくび混じりにつぶやいた。
影に衝撃なんて伝わるのだろうか。何度もあくびを繰り返す声を聞きながら華品は考える。
しかし考えはまとまらない。窓を閉めなきゃ。夕飯はどうしようか。買い物に行くのがなんだか面倒だな。あれもこれも気になるのに、まとめることができない。
心臓の音がやけにうるさくてたまらなかった。
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詩那は華品の嫁。希壱は華品の命の恩人。デイは華品の影にいる悪魔。
ファンタジックな設定のはずなのに、ファンタジックさが伝わってこないのはなんでだろう。
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ぽたりと落ちたのは涙だった。頬をなぞる水滴に黒髪の青年は指を這わせ、少し考えてから自分が涙を流していることを知った。
(そっか、オレ、今人型だから……)
仲間たちから聞いたことはあった。「人型のとき、涙っつーのが目から出るらしいぞ」「なみだ? なんだそれ」「人間どもがわんわんうっせぇときに水が出てるだろ、アレだよ」「気にしたことねぇなぁ」わめいているときの人間は面白いが、目の水にまで注目したことはなかった。
それが今、自分の目からこぼれているのだ。
不思議な気持ちになる。いくら人間が死のうとなにも感じてこなかったのに、どうして今はこんなことになっているのだ。
ぽたぽたとあごから滴り落ちる涙は、青年の足元で倒れる金髪の青年の背中に落ちる。金髪の青年の白い服にじわりじわりと水玉模様ができる。
黒髪の青年はひざを曲げ、金髪の青年の動かない肩に手を置いた。
「ごめんな、ごめんな」
人間の命の儚さに、初めて涙した。
(そっか、オレ、今人型だから……)
仲間たちから聞いたことはあった。「人型のとき、涙っつーのが目から出るらしいぞ」「なみだ? なんだそれ」「人間どもがわんわんうっせぇときに水が出てるだろ、アレだよ」「気にしたことねぇなぁ」わめいているときの人間は面白いが、目の水にまで注目したことはなかった。
それが今、自分の目からこぼれているのだ。
不思議な気持ちになる。いくら人間が死のうとなにも感じてこなかったのに、どうして今はこんなことになっているのだ。
ぽたぽたとあごから滴り落ちる涙は、青年の足元で倒れる金髪の青年の背中に落ちる。金髪の青年の白い服にじわりじわりと水玉模様ができる。
黒髪の青年はひざを曲げ、金髪の青年の動かない肩に手を置いた。
「ごめんな、ごめんな」
人間の命の儚さに、初めて涙した。
涙がこぼれる。
手の甲で拭ったって間に合わない。大きな声で叫びたかった。歩道橋の手すりから身を乗り出して、走り去っていくトラックに罵声をぶつけたかった。
深夜の風は冷たく、体外にあぶれた涙をすぐさま冷やしていく。垂れる鼻水を拭いたあとがすごく冷えた。
「信じらんないよ!」
「そう言ったって、事実なんだからしょうがないだろ」
「事実だからって、そんなの、そんなの、ない!」
頭の中で繰り返されるのは先のやり取り。そんなの、どうだっていい。そんなものを反芻したって変わらないのだ。
私が受け入れたくない現実は事実として歩き回っている。
「じゃあ今までのはなんだったの? なんで、ウソついてたの? なんで、平気な顔して私たちと会えたの?」
彼の顔を歪むのを無視して叫んだのどは、今、からからに乾いてしまっている。彼を罵倒したって意味なんてない。こぼれる涙を夜風で冷やしたって変わらない。
私はただ、会いたいだけだったのに。
会って話したかった。それだけだったのに。
手の甲で拭ったって間に合わない。大きな声で叫びたかった。歩道橋の手すりから身を乗り出して、走り去っていくトラックに罵声をぶつけたかった。
深夜の風は冷たく、体外にあぶれた涙をすぐさま冷やしていく。垂れる鼻水を拭いたあとがすごく冷えた。
「信じらんないよ!」
「そう言ったって、事実なんだからしょうがないだろ」
「事実だからって、そんなの、そんなの、ない!」
頭の中で繰り返されるのは先のやり取り。そんなの、どうだっていい。そんなものを反芻したって変わらないのだ。
私が受け入れたくない現実は事実として歩き回っている。
「じゃあ今までのはなんだったの? なんで、ウソついてたの? なんで、平気な顔して私たちと会えたの?」
彼の顔を歪むのを無視して叫んだのどは、今、からからに乾いてしまっている。彼を罵倒したって意味なんてない。こぼれる涙を夜風で冷やしたって変わらない。
私はただ、会いたいだけだったのに。
会って話したかった。それだけだったのに。
たんたかたん。
そうつぶやいた彼女の言葉の意味が理解できず、顔を上げた僕の頭を、細い指が撫でた。パーマを当てた僕の髪は指が通らない。案の定、彼女の指が途中で止まる。
「ふわふわだ」笑って、その指が引き抜かれた。「そう?」「うん、かわいい」彼女はそうやって笑い、先ほどの「たんたかたん」を無しにするらしい。
なんの呪文? と聞くのはアホらしいからしないけど、その言葉を口にしたときの彼女のあの目は気になる。
「今夜は飲むの?」
「飲む飲む。帰るときに連絡するよ」
くつのヒモを結び終えた僕は彼女を見る。口の端を持ち上げ、「わかった」と返事をする彼女の頬にキスをして立ち上がった。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
しゃがんだままの彼女は手を振る。にこにこと、覚めきらない頭の彼女の中で「たんたかたん」はどこかに消えてしまったようだ。僕の中でもどこかにやってしまおう。
たとえば、この秋晴れの空にとかしてしまうとか。
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どっちが見下してるのかな
そうつぶやいた彼女の言葉の意味が理解できず、顔を上げた僕の頭を、細い指が撫でた。パーマを当てた僕の髪は指が通らない。案の定、彼女の指が途中で止まる。
「ふわふわだ」笑って、その指が引き抜かれた。「そう?」「うん、かわいい」彼女はそうやって笑い、先ほどの「たんたかたん」を無しにするらしい。
なんの呪文? と聞くのはアホらしいからしないけど、その言葉を口にしたときの彼女のあの目は気になる。
「今夜は飲むの?」
「飲む飲む。帰るときに連絡するよ」
くつのヒモを結び終えた僕は彼女を見る。口の端を持ち上げ、「わかった」と返事をする彼女の頬にキスをして立ち上がった。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
しゃがんだままの彼女は手を振る。にこにこと、覚めきらない頭の彼女の中で「たんたかたん」はどこかに消えてしまったようだ。僕の中でもどこかにやってしまおう。
たとえば、この秋晴れの空にとかしてしまうとか。
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どっちが見下してるのかな
「空だったら夕暮れが好きかな」
そうつぶやいた彼は、とても正直で、とても嘘つきだった。
優しい微笑みは私に向けられたものではない。遠い人を思っている顔だ。きっと、彼の大切な人が夕暮れを好いていたのだろう。
私は「そうなんだ」と返し、彼から目をそらすために窓の外に広がる夕焼け空を見た。
肩を抱くわけでもなく、手をつなぐわけでもなく、ただ並んで見上げる茜色に、私は胸が苦しくなった。幸せなはずなのに、満たされない。
そんなこと最初から予想していた。
彼は私を望んでいない。だけど、寂しがり屋な彼は私を望んでいる。私でなくても構わない、誰でも構わない、そばにいてくれる人を欲していた。
「あ、飛行機雲だ」
指をさして笑う彼がとても愛しくて、とてもかわいそうだった。
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いいから、お願いだから、
そうつぶやいた彼は、とても正直で、とても嘘つきだった。
優しい微笑みは私に向けられたものではない。遠い人を思っている顔だ。きっと、彼の大切な人が夕暮れを好いていたのだろう。
私は「そうなんだ」と返し、彼から目をそらすために窓の外に広がる夕焼け空を見た。
肩を抱くわけでもなく、手をつなぐわけでもなく、ただ並んで見上げる茜色に、私は胸が苦しくなった。幸せなはずなのに、満たされない。
そんなこと最初から予想していた。
彼は私を望んでいない。だけど、寂しがり屋な彼は私を望んでいる。私でなくても構わない、誰でも構わない、そばにいてくれる人を欲していた。
「あ、飛行機雲だ」
指をさして笑う彼がとても愛しくて、とてもかわいそうだった。
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いいから、お願いだから、