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踏みとどまった思いの行き先
2026/06/25  [PR]
 

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 ぽつぽつと雨が降っているのを感じていたが、アタシは歩調を速めなかった。急いで帰ったところで勤務時間は変わらないし。今日は●●休みだからつまんないし。
 雨が降る前と何ら変わりない足取りで歩く。右、左、右、左。ピンヒールは軽快に石畳を蹴る。
 傘は持っていたが、降り始めたときに出会った少女に貸した。そのうちでいいから返しにきてね、と将来有望そうな少女に治安維持課の名刺も渡した。どうかなぁ、来るかなぁ。あのビル、入りにくいからなぁ。
 冷えたつま先から感覚がなくなる。ストッキングじゃなくてタイツにするべきだったー、今更額を押さえたって仕方ない。戻ったらあったかい飲み物を飲もう。できたらクララのいれるコーヒーがいい。
 考えたら楽しみになってきて、私は鼻歌をうたいそうになった。パーカーのフードをかぶって耐えたけど。


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名前をメモした紙を見ないと名前がわからないっつっていつまでも放置しそうだったのでとりあえずアップー。
そのうち名前をさしかえたい。
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「いらっしゃーせ」
 ミルクティ、ポテトチップス、メンズポッキー。一つ一つレジを通している間、ものすごい視線を感じた。
「474円です」
 黄色いパーカーを着た客はスエットのポケットをまさぐりながら、それでもこちらから視線をずらさない。口がわずかにもごもご動いている。
 人の名札見てなに考えてんだ。
「はい」
 五百円玉が手渡される。「500円お預かりします。26円のお返しです」「みみや?」茶髪のパーマ頭が傾いた。
「は?」
「あ、いや、お兄さんの名字がですね、あの」
「さんのみやです」
「さん、のみやさん?」
「みみやじゃないですよ」
 ビニール袋をつかみ、おつりをポケットに押し込む。レジスターの上でレシートが丸まる。
「あー……」
「てかみみやって初めていわれたし」
「ああー、ですよねー……」
 半笑いで頭をかく客に「ありがとうございました、またお越しくださいませ」とお決まりの言葉をぶつけると、「失礼しましたー」頭を下げながら帰っていった。
 変な客。


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なにもいわない。なにもいえない。

 ガクン、とひざが落ちる。反射的に手を伸ばし、結果、ひじをテーブルに打ちつけた。言葉にならない痛みがひじを中心に脳に訴えてくるが、華品(かしな)はその場に尻を落とし、動けなくなる。
 めまいがした。

『華品ー?』

 影の中からデイが声をかける。華品は返事をしない。
 視界を取り戻した目であたりを見渡す。異常はない。足元になにかあったわけでもない。

『お前、最近なんでもないとこでこけるよな』

 ケラケラとデイが笑った。「そう、ですね」力の入っていない声で返す。デイは影の中で首を傾げたが、華品には伝わらない。


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書きかけ発見。同じようなネタがあと1、2本あるはず。

「いらっしゃいませー」
 やる気の見えない声でマニュアル通りの言葉を発する。客は私の姿を見つけるとわずかに口の端を持ち上げて笑った。そのまままっすぐに雑誌コーナーへ向かう。
 隣に立っていた柳さんがひじで私をつついた。
「なんですか」
「いやー、葉(よう)ちゃん愛されてるなぁって」
「ストーカーですよストーカー」
「またまたぁ」
 ズボンの後ろポケットに指を入れ、壁にかけられた時計を見る。あと5分。
「だって葉ちゃんが遅番の日には絶対迎えに来るじゃん」
「……チェックしてたんですか」
「オレと葉ちゃんのシフトがかぶるってことは、葉ちゃんが0時上がりってことなので」
 目にかかる前髪を横に流し、その先をピンでとめている柳さんはにこにこと嬉しそうだ。なにが面白いんだか。
「それに私、彼氏いますから」
「アイドルでしょ」
「立派な妄想彼氏ですよ」
 店内の唯一の客が雑誌を立ち読みしながら必死に笑いをこらえている。失礼な客だなぁ!間違い、気持ち悪い客だなぁ、一人で笑いだすなんて!危ないんじゃないのかな!
 柳さんは唇を尖らし、「それだったらオレだって彼女たくさんいるよ。グラビアとかグラビアとか」「AV女優とか?」「葉ちゃん、女の子がそんなこといわないの」「いらっしゃいませー」「しゃーせー」
 電車が到着したのか、お客さんがぱらぱら入ってきた。休憩をもらっていた高瀬さんが戻ってくる。「葉ちゃん、上がっていいよ」「わーい。お先失礼しますー」柳さんが下あごを突きだしてきたけど無視をした。頭を下げて彼の前を通過。おにぎりとカップラーメンを手にしたサラリーマンがレジに向かってきた。
 事務所へ戻る途中、先ほどまでオンリーワンだった客が雑誌を棚にさしたのを見る。
 なにか買うんだろうか。お菓子買わないかな。もしくはデザート的ななにか。
 事務所のドアを開けた瞬間顔をしかめる。人のいないそこはすごくタバコ臭かった。




「ばー?」
 部屋を覗き、中を確認する。ベッドにうつぶせになっている葉(よう)の姿を見つけた。潤は近づき、もう一度呼ぶ。
「ば?」
「ねぇ、それもしかして私のこと呼んでるの?」
「お前以外に誰がいんだよ、ば」
「うざっ!」
 勢いよく体を起こす葉から身を離し、近くにあった座布団を引きずりその上に腰を下ろす。ジャケットを脱ぎ、適当に丸めて隣に置くと、目を細めた葉がカーテンレールを指差し、「かければ」とハンガーの使用許可をおろした。
 潤はちらとハンガーに目をやったが、肩をすくめ丁重にお断りする。
「あそ」
「寝てたの?」
「彼氏と会ってたの」
「え? オレ今きたとこだけど」
「お前じゃねぇよ」
 ベッドから降り、頭をかきながら葉が天井を指差す。そこにはアイドルグループのポスターが貼ってある。潤は「あー」とだけ返した。部屋から出て行った彼女には届いてないだろうけど、「そんなにいいかな、コイツら」小さくつぶやいた。
 首が痛くなるまで天井を見上げ、今度は床に落ちていた雑誌を拾う。表紙は先ほど見つめたアイドルグループだ。ぎこちない笑顔!アイドルのくせに!そう思って一人一人の顔を中指ではじいていたら「なにしてんの」後ろから声をかけられた。
「かわいいなーって」
「うそつけよ」
「いつ見たって興味わかねぇなぁって」
「うざっ」
 前髪をかきあげながら葉が眉間にしわを寄せる。潤は手にしていた雑誌を元あった位置より少し遠いところに戻す。
「見ないの?」テレビを指差せば「見てほしいの?」嬉しそうな声が返ってきた。ニヤニヤしてる。「ばー、気持ち悪い」「うざっ!」
 飛んできた枕を両手でキャッチし、潤は首を左右に傾けた。いつまで続くのかなぁ。
「なにが」
 声に出ていたようだ。テレビとDVDの電源を入れた葉が振り返る。手にはDVDディスク。見たいやつ決まってたんだ。首を傾けたまま潤は「さあ?」と答えた。
 オレらの関係か、葉のアイドルへの愛か。どっちが早く終わるかなぁ。



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