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踏みとどまった思いの行き先
2026/06/24  [PR]
 

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 店の前でタバコを吸っている若いお兄さんがいる。若いっていったって30前だろうなぁぐらいで、オレよりも年上だ。絶対。外れないオレの第六感がそう告げているから、絶対だ。
 携帯灰皿に吸い殻を入れているから最低ラインを守っているように思えるが、だがしかし!そのタバコのにおいをまといながらこの店に入るというのか!店のおいしいパンに、そのタバコのにおいが移ったらどうするつもりなんだ!営業妨害もはなはだしいぞ!
 胸の前で腕を組んで睨んでいたというのに、お兄さんは店に入ってきた。「いらっしゃいませ」いいたくないのに体が反応してしまう!これが職業病か!?
 店内をゆっくりと見て回ったお兄さんが買ったのは8枚切りの食パンとコーンパンとカレーソーセージパンとデニッシュだ。レジを打つとき、お兄さんからただようタバコのにおいに顔をしかめたくなった。しないけど!タバコくさくたってお客さんだし!オレもカレーソーセージパン好きだから!

「ありがとーございました」

 天気がいいからそのへんのコンビニで飲み物買って、そんでもって近くの公園でパンを食べようとして雨に降られてしまえ。もしくはカレーソーセージパンの上に乗ってる刻んだパセリを前歯につけたまま人に会って、しばらく話して大笑いしてからトイレに入ってそのパセリの存在を知って恥ずかしい思いをしろ。その相手が片思い相手だったらなお最高だ!
 とかなんとか、お兄さんが店から出ていったらすぐにどうでもよくなった。それよりもほかのお客さんにおいしいパンを食べてもらう方が重要だからね。


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なにも~第4弾。
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 警棒を野球のバッドに見立てて力いっぱい振り抜く。バッドほどのいい音はしなかったが、それなりのものが聞こえた。気がした。
 首を回し、警棒で肩をたたく。後ろから足音が近づいてきて、「はい」という声とともに頬に冷気がぶつかった。

「ウイ!」
「ははっ、おつかれー」

 悪気なく笑うウイはスズキの頬に当てた缶をそのまま差し出してきた。スズキがじと目でウイを見る。「おねーさん、息が白いのを知ってますか?」「アタシさっきまで鍛錬してたからさぁ、すっごく暑いの」確かに、コートを羽織り、マフラーを巻いているスズキに比べてウイは軽装だ。ニットカーディガンを着ているとはいえ、その中は胸元が大きく開いているカットソーだし、スカートの丈も短い。
 バカじゃねぇの、とつぶやいたら聞こえていたようで、ウイはもう片方の缶をスズキの額にぶつけ「もう二度とアンタに優しさを与えない」かばんの中にしまい込んだ。

「うわっ、今のちょうほしい。すっげぇほしい。ウイちゃんウイちゃん、すっごくかわいくて優しいウイちゃん!」
「なに?」

 缶のプルタブを起こす手を止めてウイはスズキを見る。

「すいませんでした」
「わかればよろしい」

 頭を下げるスズキの後頭部に缶を乗せ、笑った。スズキはウイからもらった缶に頬ずりしながら幸せそうに顔をゆるめる。
 のどを鳴らしてキンキンに冷えた炭酸飲料を飲み干したウイは「じゃ」と片手を上げて来た道を戻っていった。
 スズキは「おー」と返し、缶を開ける。飲み口からは濃厚なおしるこの香りがただよった。


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お題に沿っているか否かは、さして問題ではない。と、思いたい。

 化粧を直す女の背中を見ながら、男はぼんやりと考えた。彼女は、これからなにがあって、いったい誰のためにめかしこんでいるのだろうか。
 ぱちん、と鏡の閉じる音がして、女の化粧直しが終わったことを告げる。ポーチに鏡を入れ、そのポーチをかばんにしまう。毛先を指にからませ、巻き毛を確認する。
 立ち上がる女を見上げ、男は動けないでいる自分に気づいた。

「アタシ、帰るから」
「うん」
「ちゃんとご飯食べてね。また痩せたみたいだし」
「ん」
「じゃあ」
「ん」

 ベッドの上であぐらをかいたまま手を上げる。女はなにか言いたげな顔をしたが、黙って男の部屋から出て行った。
 ドアの閉まる音だけが室内に響き、男はベッドに倒れる。枕元に置いているリモコンを手探りで握るとコンポの電源を入れた。ややあって再生されたのは、知り合いが所属するオーケストラのCDだ。
 まぶたを閉じる。
 ゆっくりと、今日の彼女を思い出す。変なところなどなかった。疑うだけバカみたいだ。時間の無駄だ。そんなことをする時間があるならほかに使うべきだ。
 久しぶりに会ったから違和感を抱くだけで、化粧の仕方や服装の好みが変わったと思うのは、気のせいだ。
 自分に言い聞かせる。何度も何度も繰り返し、思いこませる。
 もう終電もないだろうに、どうして彼女は帰りたがったのか。まぶた越しに入り込む部屋の明かりがまぶしくてすごくイライラした。


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探り探り……。二次と創作の境界線をはっきりさせないのは悪いところだとわかってる。

「小鳥遊さん!」

 黒いケースに入れられたトロンボーンを背負った青年が向かいからやってくる男に手をあげた。名前を呼ばれた男は雑踏の一部であった青年を知り合いと認識し、「ああ」と片手をあげて返す。
 青年は嬉しそうに顔をほころばせ、小鳥遊のもとへ駆け寄る。「珍しいですね、お帰りですか?」「うん、今日は早く帰れて」「そしたら」そこで言葉を切り、青年はずれてもいないトロンボーンを背負い直す。なにかいいたそうに口を動かすが、言葉は出てこない。いいのかな、迷惑だと思われないかな、すでに予定があったりしないかな。
 ぐるぐると考える青年をよそに、小鳥遊はやわらかく微笑むと彼の背中にいるトロンボーンを指差した。

「せっかくだから、話聞きたいな。最近がんばってるって噂だし」

 はじけるように青年の表情が明るくなる。大きくうなずきながら「喜んで!」腹の前でこぶしを作った。


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なにも~第3弾。

 あ、パンが切れた。と思った。毎朝、必ず8枚切りの食パンをトースターで焼いて食べている、そのパンがなくなってしまった。
 後ろではアナウンサーが楽しそうに笑っている。朝から元気だなぁ、と思いつつ、最後の一枚をトースターに入れた。どうしよう。スーパーで買うしかないかな。でもな、先週入ったパン屋のパン、うまかったんだよな。あ、お湯わいた。
 休みの日の朝はゆっくりできていい。焼いたパンにマーガリンを塗って、その上にジャムを塗ることができる。しかも隅々まで、隙間なくたっぷり塗る余裕まであるじゃないか!土日ばんざい!
 ……平日の朝、きちんと起きればいいだけの話なんだけどね。
 わいたお湯で紅茶をいれ、砂糖と牛乳を加える。トースターの中ではパンがじりじりと焼けていく。あのパン屋、行こうかな。今日は午前中ヒマだし、パン屋で食パンとついでに昼飯になりそうなパンを買えばちょうどいい。
 テレビのチャンネルを回したら、子ども向けアニメが映る。ミニスカートをひらひらさせながら戦う美少女にハマる人はハマるよなぁ。なんでだろ。確か会社の誰かもハマってた気がする。誰だったっけ。
 考えていたらチン、という音がした。じじじじと音を立てるトースターは自分の仕事を終えたようだ。きれいに焼き目のついたパンを皿に乗せ、パン屋に行くことを決意する。やっぱさ、朝はおいしいパン食べたいよ。
 先週行ったときに店内でばたばたしていたあの茶髪頭はバイトかなぁ。マーガリンを塗りながら思い出す。それともパン屋見習い? 看板息子?
 いちごジャムが塗られたパンをかじり、昼はコーンパンが食べたいと、思った。


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なにもいわない、なにもいえない第二弾。
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