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踏みとどまった思いの行き先
2026/06/21  [PR]
 

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 走らない電車を、こうやって眺めるのは何回目だろうか。
 駅員は同じことを繰り返し繰り返しアナウンスする。強風のため、安全確保のため、電車遅れてます、お忙しいところ申し訳ありません。聞き飽きたそれに新しい情報が付加されるのを待ってみたが、10分経っても20分経っても変わらなかった。
 電車は動かない。ドアは閉まらない。
 かばんを持ち、外から見ていても仕方がないので(どうせこれに乗るのだし)、足を動かし電車に乗り込んだ。風のないそこは、スカートがはためかなく快適だと思っていた。
 しかし電車の中に沈んでいる不安、あせり、圧迫感がじわじわと足元からせり上がってきて、気分はよくなかった。ホーム上では分散されていたそれが、車内では密集している。これはよくない。
 耳に入るアナウンスはずっと同じことを繰り返す。隣に立つサラリーマンは落ち着かない様子だ。
 いつ電車は動くのか。いつ我々は会社に着けるのか。大学生は春休みでよかった。混み合った車内をこれ以上込み合わせることはない。私はそう自分に言い聞かせ目をつぶる。
 つかまったつり革が生暖かい。業を煮やした誰かが降りていった、その跡地に私が滑り込んだ。ただそれだけ。
 ただそれだけのこと。
 早く電車が動けばいいのに。誰もが思っていることを私も思う。天に届け、みんなの思い。
 窓の外の空は快晴。この風さえなければ散歩したりするの、気持ちよさそうなのにね。



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 ある日突然運命が変わるなんて、そんなものは映画とかドラマとかフィクションの世界であって、現実の場合はじわりじわりと近づいてくるものなのだ。
 足音と気配を消して。

「長野真也(ながのしんや)さんご在宅ですか?」

 決して褒められることでも、自慢できることでもないが、長野真也26歳、職業ニート。というか、ヒモ。同居人の佐賀俊太(さがしゅんた)にお金をもらって生活をしている。
 今日だってお昼代でもらった1000円でなにを食べようか、寝たり起きたりを繰り返して15時近くなってしまった。大概の店ではランチタイム終了。オシャレなカフェでパスタを食べたいな、という昨夜の夢は遠いものになる。
 仕方ないから近所のそば屋に行こうかな、納豆そば食べたいかもしんない。とか思いながら身支度をしていた。とかいったって髪に手ぐしを通すぐらいなもので、着替えもひげ剃りもしない。だって道の反対側だし。
 だから、高いであろう仕立てのいいスーツを着て、こじゃれたネクタイをきちっとしめて、爽やかな笑顔で他人の家のインターホンを鳴らす男と関わったことがないし、名前を知られるというハプニングに遭遇したこともない。
 ドアを開け、にこにこと人当たりのいい笑みを浮かべる男に向かって首を傾げる。

「長野真也はオレです、けど」
「ああよかった。それなら話が早いです。あ、失礼しますね」

 軽く頭を下げながら男が家に入り込む。が、靴を脱ぐ気はないらしい。玄関の明かりをつけ、改めて男を見た。
 薄くも厚くもないかばんを置き、スーツの内ポケットから名刺入れを出し、一枚の名刺をオレに差し出す。

「××金融の福島と申します」
「あ、はぁ、どうも……」

 受け取った名刺を眺める。
 ××金融の福島勇人(ふくしまはやと)。いやぁ、知り合った記憶も、知り合う理由も見つからないなぁ。頭をかきながらそんなことを考えている間に福島さんはかばんからクリアファイルを取り出す。
 書類だ。
 そう認識するのと同時に視界が白とぼやけた黒に支配される。

「長野真也さん、300万円の借金、きっちりしっかり返してもらいましょうか」

 こんなたくさんのゼロ、初めて間近で見た。




 ちゃりん、と10円玉が落ちた。
 あ、と思って拾おうとしたら握りしめていた100円玉と1円玉と10円玉が相次いで飛び降りていった。計378円が床に散らばる。

「うわ、すみません」
「大丈夫ですか?」

 受け取ったビニール袋をカウンターに置き、しゃがんで小銭を拾う。向かいから店員が身を乗り出してこちらの様子をうかがっているが、櫻庭は顔を上げなかった。羞恥で顔が熱い。
 すべての小銭を回収し、立ち上がって、そこでようやくコンビニ店員の顔をきちんと見る。見覚えがあるな、と思って首を傾げると、向こうも同じように首をかたむけてきた。
 どこで、なにつながりで、誰だ?
 胸元の名札を見る。『三宮』。三宮、さんのみや……

「あ!三宮ってお前、会社辞めた」
「? そうですけど」

 ビニール袋をつかむ。中で缶が倒れた。おにぎりがつぶれたか心配になったが、確認する気はない。

「えー、引き抜かれたとか、年上女に飼われてるとか、いろいろウワサあんだけど」
「根も葉も実もないウワサですね」
「そういうの好きなやつがいるからさぁ。え、なんでここで?」
「お客様」

 三宮が営業スマイルを作る。櫻庭の後ろへ目をやり、「次のお客様の迷惑になりますので」気づいた櫻庭が横へ退く。振り返って目に入ったのは黄色のパーカーだった。

「またアンタこれ買う」
「好きだからねぇ」

 カウンターに置かれたポテトチップスとミルクティとポッキーを見て三宮はため息をついた。
 そのやりとりを見ていた櫻庭が黄色のパーカーへ手を伸ばす。

「パン屋の看板息子さん?」

 瞳を輝かせた櫻庭に見られ、きょとんとしている相馬の向こうで、三宮が眉間にしわを寄せあごを突き出していた。


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なんもいえない第12弾orz
創作は、もうしばらく離れてそうですねorzorz

 あれ、と思ってから早かった。
 稲葉は三宮の腕をつかみ、彼を無言で引き留めていた。
 体が後ろへ倒れそうになった三宮を支えようと左手を出したが、仕事を与えられることはなく、自力でバランスを保った三宮が振り返る。怒ってるかな、と稲葉は内心ドキドキしたが、三宮の表情には特別な色は浮かんでいなかった。

「びっくりした」
「あ、すみません」
「潤くんだっけ。なに?」

 感情のない声で聞かれる。やっぱり怒ってるのか。不安になるが、稲葉は三宮の腕から手を離し、あー、と言葉を濁す。「見かけたから、つい」「潤くんは知り合いを見かけたら引き留めなきゃ気がすまないんだ」笑われた。
 いまいち感情が読めない三宮は、周囲を一瞥して稲葉へ向き直る。近くのカフェを指差し、

「よかったらお茶でもしない?」

 ナンパされた。


◇◇◇


 慣れた店なのか、店員が案内するより先に奥の席へ進む。間仕切りのガラスに『喫煙席』とタバコの絵と一緒に描かれていた。思わず稲葉は自分よりもやや低い位置にあるその頭を睨む。吸うのかよ。
 窓にそって作られたカウンター席に三宮はすすんで腰を下ろし、稲葉を見る。「なに飲む?」「なにがあるんだか……」「コーヒー紅茶ココア」「…………ココアで」「はいはーい」トロンボーンのケースをどこに置こうかガタガタとしていると、立ち上がった三宮が横からそれを抱え上げた。

「レジで預かってもらえるよ」
「ありがとうございます」

 よたついた三宮に反射で腕を伸ばすが、やはり仕事はもらえなかった。
 人の間を縫うように歩く三宮の背中を見て、小鳥遊を思い出す。二人ともちゃんと食べているのか心配になるような薄い体だ。小鳥遊の場合、顔がふっくらしているのでぱっと見た目ではわからないが、三宮の場合は見た目から薄い。
 心配だな、と考えてからすぐにいやいやいや、と思い直す。そこまで気にする義理はない。
 稲葉は体の向きを元に戻し、息を吐いた。窓越しに人々を見て、なにしてんだろ、と物思いにふける。
 が、すぐに「おまたせー」というわざと語尾ののばされた声に雰囲気をぶち壊された。ニヤニヤと笑う三宮を見上げる。

「ココア、アイスでよかった?」

 目を開いたら「ウソだよ」と笑われた。やっぱりこの人わかんない。


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なんもいえない第11弾。
これが3つ続いているという事実に動揺が隠せない。

「お」「あ」
「え?」

 二人の声を聞き、稲葉(いなば)は隣りの小鳥遊(たかなし)と正面の知らない男を見て、首を傾げた。
 おー、おー、と言いながら手をあげて近寄ってくる男を稲葉は知らない。対する小鳥遊もあー、あー、と少しテンション高めに手をあげている。
 稲葉の知らない小鳥遊の知り合いがいるのはなんら不思議はない。むしろいなかったら心配になる。しかしその男はどうしてだか、小鳥遊の知り合いというにはどこか違和感がある気がした。
 共通点が見つからない。つながりが読めない。会社の人ではなさそうだし、大学時代の友人、でもなさそうだ。
 訝しんでいる稲葉に気がついたのか、小鳥遊が男を手でさし、「三宮(さんのみや)くん」と紹介した。そして今度は稲葉をさし、男――三宮に向かって「潤くん」と紹介する。
 その声に稲葉は口元がゆるむのを感じた。隠すようにマフラーで口を覆い、どうも、と会釈をしたらじろじろと見られた。
 失礼な人だな、と思いながら三宮を見返す。トロンボーンのケースを背負い直し、小鳥遊へ視線動かした。
 一瞬のためらい。口を開けて閉じて、それから開ける。

「智さん、あの」
「じゃ、三宮くん、またね」

 意を決して小鳥遊の名前を読んだが、彼自身の声がかぶさってしまった。三宮は「はいはい」と手をひらひらさせ、二人とすれ違う。軽く頭を下げた稲葉が振り返る。小柄な三宮はすぐに雑踏へ消えた。
 小鳥遊を向くとにこにこと笑っている。珍しい表情に、稲葉はドキッとした。

「な、んですか」
「んー? 潤くんが久しぶりに智って呼んだから」
「ちょ」

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!
 聞かれてないと思ったのに、なんでこの人は変なところをしっかり聞いているんだ、たまに会話を聞き漏らすというのに!
 ずり落ちていないトロンボーンのケースを肩にかけ直して稲葉は歩き出す。

「早くお店入りましょうよ。外寒いですし」
「潤くーん、別にいいんだよ? 照れなくてもいいんだよ?」

 後ろから楽しそうな小鳥遊の声が聞こえるが、稲葉はそちらを見れなかった。マフラーを上げ、鼻から下を隠す。顔が熱い。
 隣りに並んだ小鳥遊が笑う。「小鳥遊さんより智さんの方が嬉しいなぁ」ご機嫌な小鳥遊に、稲葉は恥ずかしすぎて声が出なかった。


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なんもいえない第10弾。
これを、私は10話も書いてるのかorz
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